近年、データ管理やAI技術の進化に伴い、多くの企業が「クラウドサーバー」を活用しています。その中で注目を集めているのが、インターネット上で利用できる「クラウドAI」です。
AWSの画像認識サービスや、Microsoft Azureの自然言語処理機能など、クラウドAIは業務効率化・データ分析のツールとして利用されていますが、「クラウドAIは具体的には何ができるの?」「どのように使えば効果的」など疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで今回は、クラウドAIの基本的な仕組みや端末内で動作する「エッジAI」との違い、活用事例を解説します。
クラウドAIとは?【クラウド上で使用できるAIシステム】
クラウドAIとは、インターネットを通じて利用できるAIシステムのことです。専用のハードウェアを自社で保有する必要がないため、初期投資や運用コストを抑えられ、簡単に導入・利用することができます。
主要なクラウドサービス(AWS・Microsoft Azure・Google Cloudなど)では、画像認識・自然言語処理など、事前に学習されたAIモデルや大量のデータを分析するためのツールが提供されています。これらを組み合わせることで、高度な回答生成やデータ分析が行えます。
さらに、クラウドAIは、スマートスピーカーやウェアラブルデバイスなどのIoT機器(インターネット接続できる機器の総称)やセンサーから収集される膨大なデータを活用し、リアルタイムで高度な分析・予測を行うこともできます。これにより、業務効率化や新たなビジネス価値の創出に役立てます。
AI技術についてさらに詳しく知りたい方は、「AI技術とは?人工知能にできることや活用事例・導入方法を解説」をご覧ください。

クラウドAIプラットフォームの種類:総合型・特化型・PaaS型
クラウドAIプラットフォームは、大きく「総合型」「特化型」「PaaS型」の3種類に分類されます。それぞれの特徴は以下の通りです。
総合型 | ・AIの開発や学習、運用に必要な機能が一体化された汎用AIプラットフォーム ・Amazon SageMakerやGoogle Vertex AIなどが代表例 |
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特化型 | ・医療や物流といった特定分野に特化したAIプラットフォーム ・Amazon SageMakerやGoogle Vertex AIなどが代表例 |
PaaS型 | ・学習済みAIモデルと開発インフラが統合されたAIプラットフォーム ・開発経験が少ない企業でも短期間でAIを活用できる |
エッジAIとの違い:エッジAIは端末内で推論を行う
クラウドAIは、クラウド上で大量のデータを基に学習や推論を行い、複雑な分析や判断を行います。 一方、エッジAIは端末内でリアルタイムに推論を実行するため、スマートフォンの顔認識機能や自動運転車の障害物検出など、即時の判断が求められるシーンに適しているのが特徴です。
エッジAIは通信量を抑え、低コストで運用できる反面、端末の処理能力に依存するので、高度な学習処理や大規模データの分析には限界があります。現在は、クラウドとエッジAIの双方のメリットを生かしたハイブリッド型のサービスが一般的です。
項目 | クラウドAI | エッジAI |
処理を行う環境 | クラウド上 | 端末内(一部データはクラウド上) |
学習能力 | 高度な学習処理が可能 | 端末のスペックに依存する |
リアルタイム性 | インターネット環境に左右される | リアルタイムに判断が可能 |
クラウドAIの特徴とメリット
ここからは、クラウドAIの特徴とメリットを解説します。
必要なときに必要な分だけ使える柔軟性
クラウドAIは、利用状況に応じてリソースを自在に拡張・縮小できるので、急激な需要変動にも対応可能です。ハードウェアを増設する必要もなく、効率的なデータ処理や学習ができます。
また、マルチクラウド環境(複数のクラウドサービスを同時に利用する環境)での運用により、大規模な解析や高度な分析を行える点もメリットです。

低コスト・高速導入
クラウドAIは、専門的な知識や専用のハードウェアが必要なく、インターネット経由で即座に導入が可能です。そのため、自社でAIシステムを構築するよりも初期費用や運用コストを大幅削減できます。
また、ノーコード開発や学習済みAIを活用することで、まずは小さく試しながら導入を始めることができ、サービスもすぐに展開しやすくなります。
最新技術の活用
クラウドAIでは、クラウドAIサービス事業者が最新のAI技術やツールを常にアップデートしており、ユーザーは最新の学習済みモデルをすぐに利用できる点が魅力です。
自社で構築したAIシステムと比較しても、クラウドAIなら常に新しい技術を取り入れやすく、コストを抑えながら運用できます。
クラウドAIの活用例
クラウドAIは、製造業や小売業、医療などの分野で活用されています。ここからは、クラウドAIの具体的な活用事例を解説します。
AIの活用事例について詳しく知りたい方は、「AIの活用事例を業種ごとに紹介!人工知能を導入して解決できることを解説」をご覧ください。
製造業:予知保全と自動検査
製造業では、クラウドAIが商品の色や形状を学習し、見逃しやすい細かな不良品を判断しています。そのため、手作業よりも精度が高い品質管理ができます。
不良品を検知する仕組みは専用機器と連携し、自動的に不良品を取り除くので、生産ラインの運用効率も向上しています。また、センサーとAIを組み合わせたシステムは、その場でデータを分析して判断できるので、予知保全(機器の故障を未然に防ぐこと)にも活用されています。
小売業:需要予測と顧客分析
小売業では、天候や気温、曜日などのデータを基に、クラウドAIが商品の需要を予測し、在庫管理や発注の無駄を減らしています。
例えば、スーパーマーケットチェーン大手のライフでは、自動発注システム「AI-Order Foresight」を導入し、顧客分析と自動発注により業務の手間を減らすことに成功しました。また、AIによる発注の自動化によって、従業員の経験に頼らずに発注が可能になり、作業の負担やムダな廃棄が減少しています。
医療:診断支援と患者管理
医療分野では、クラウドAIがX線やCT、MRIなどの画像から異常を見つける診断技術として使われています。
富士フイルムの医療クラウドサービスでは、過去の症例を学習したAIが診断をサポートし、患者の管理や治療のスピードアップに役立っています。画像・動画認識とデータ分析を組み合わせることで、現場で重要な情報を素早く取り出せるようになり、医師の判断を補う技術として注目されています。
導入時の注意点と課題
クラウドAIの導入は、セキュリティやプライバシー、ネットワーク依存といった課題もあります。以下では、クラウドAIの導入時の注意点と課題を解説します。
セキュリティとプライバシーの確保
クラウドAIでは、大切なデータを外部のクラウド上に保存するため、情報漏えいや不正アクセスのリスクに注意が必要です。そのため、プライバシー保護やネットワークのセキュリティ対策が重要です。
また、入力したデータがAIの学習に使われる可能性もあるため、信頼できるクラウドAIサービスを選ぶことも大切です。特に、機密性の高い情報を扱う企業では、オンプレミス型の自社AIやエッジAIの方が向いている場合もあります。

ネットワーク依存
クラウドAIは、常にインターネット接続が必要なため、ネットワークに障害が起きるとサービスが使えなくなるリスクがあります。
通信帯域の混雑や遅延によって、リアルタイムの判断やデータ処理に影響が出ることもあります。そのため、オンプレミス型の自社AIやエッジAIとIと比較すると柔軟性に欠ける面があります。
クラウドAIの今後の展望
AI市場は急速に成長しており、製造業や金融業、流通業など、規模を問わず幅広い業界で導入が広がっています。クラウドAIやエッジAIの普及により、企業も以前より手軽にAIを取り入れられるようになってきました。
クラウドAIのような最新技術の活用は、企業の競争力アップにもつながっており、今後の展望も明るいものとなるでしょう。
まとめ
今回の記事では、クラウドAIの意味や特徴・メリット、活用事例、導入時の注意点と課題、今後の展望を解説しました。
クラウドAIとは、インターネットを通じて利用できるAIシステムです。クラウドAIの主なメリットは、必要なときに必要なだけリソースを使える柔軟性、低コストでの高速導入、最新技術の活用などが挙げられます。一方、導入時の課題としては、セキュリティとプライバシーの確保、ネットワーク依存などがあります。
AI市場は急速に成長しており、クラウドAIの普及によって、企業もより効率的にビジネスを進められるようになるでしょう。